オリックス金子千尋の謎のFA宣言について今更まとめてみる

金子FA宣言 初の日米大争奪戦に発展も - プロ野球ニュース : nikkansports.com

 進路が注目されるオリックス金子千尋投手(31)が11日、今季取得した国内FA権の行使を宣言した。申請期限のこの日に球団に意思を伝え手続きを完 了。ポスティングシステム(入札制度)を利用してのメジャー移籍も視野に入れており、オリックスが容認すればポスティングと国内FAを併用する史上初の ケースとなる。沢村賞右腕を巡り、日米大争奪戦に発展する可能性が出てきた。

 

 

 

1.概要

かんたんにまとめると

 

金子「来年オフに海外FA権取れるんだけど、なんとか今年中にメジャー行きたい。スミマセンがポスティング移籍認めてくれませんか」

オリックス「ポスティングぜったい認めない」

金子「ぐぬぬ……」

オリックス「フフーン、来年も一緒に頑張ろうね~来年オフには海外FAも取れるだしさ~」

金子「……(イラッ)じゃあ国内FAするわ。球団がポス認めないんだったら1年契約ポス容認条項付で国内のどっか別のチームと契約するから。ポスティングすれば球団にも20億入るのにその権利放棄してまで国内他球団にエース流出させるとかバカスwwwww」

オリックス「」

 

 

ようするに、金子がすでに持っている国内FAを交渉材料にしての、ポスティング容認を認める交渉なのです。

 

国内FA権を行使してしまったことで海外FA権の累積年数がリセットされてしまったので(FA権再取得には4年かかる)、金子って海外思考なかったんだ~と勘違いしている人もちらほら見ますが、まったくの逆。

金子は来年まで待てば確実に海外FAを取得して円満にメジャーに行けたのに、国内FAを駆使してのある意味恫喝とも言える手段を使ってまで、今年中にメジャーに行きたかったのですよ。

 

2.そこまでしてメジャーに行きたい理由

 

金子千尋 - Wikipedia

ウィキペティア先生酷使してごめんなさい。勤続疲労で鯖落ちしないといいけど。

 

岩隈ダルビッシュ田中がメジャーに行ってしまった現在、金子千尋は間違いなく日本球界でナンバーワンのピッチャーです。最速150キロ超のストレートに七色の変化球、完投能力、そして持ち味とも言える正確無比なコントロール。全くもって非の打ちどころがないピッチャー。

若干スペランカー体質だったのが珠に傷だが、ここ数年は大きな故障もなく、安定したピッチングを続けているのです。

とくにここ2年のピッチングは抜群。去年は田中の24勝に隠れて目立ってはいなかったものの指標によっては田中を上回る内容だったし、今年は下馬評通りに沢村賞を受賞しました。すごい。

 

しかし、そんな金子もすでに31歳であり、ピッチャーとしては円熟期を迎えています。

ベテランになる前に自分のピッチングがメジャーで通用するのか挑戦したいという気持ちは当然あるでしょう。

それに加えてお金の問題もあります。金子は現在単年2億の契約ですが、田中が昨年7年100億の契約を勝ち取ったことを考えると、田中ほど若くはないというネックはあるものの、5年50億くらいの条件は出てくるんじゃないでしょうか。

ここ2年は自己最高の成績、あとは年を食うだけ……と考えると、金子が今オフ中にメジャー移籍したい気持ちも痛いほどわかります。来年も国内でベストピッチをしたとしても、年齢を重ねている以上、今年よりもいい契約を結べるとは限らないと思うのです。

その上、国内FA権という交渉材料が手元にあるのだから、これを使わない手はない、と本人が考えるのも仕方がないことです。

 

3.そもそもFA権とかポスティングってなんだよ

という説明を一番最初にするべきでした。

 

プロ野球選手はドラフト時に指名された以外の球団に所属することが認められないのですが、代わりに一定の年数その球団の一軍に登録されることで、選手自らが全ての球団と選手契約を締結できる権利を有することができるのです。詳しくはウィキペティア先生にでも聞いてくれ。

国内にFA宣言するためには7,8年、海外も含めてFA宣言する場合は9年くらいかかります。金子は現在国内FA権を持っているが、海外FA権は持っていない現状。

 

FA権が選手の権利であるのに対して、ポスティングシステムは球団側を救済するための制度。

所属選手が国内FAで他球団に移籍した場合、球団は移籍球団から補償選手を得るか、取りたい選手がいない場合は代わりに金銭補償をうけることができるのですが、海外移籍の場合はこのような補償はありません。球団としては看板選手が一人いなくなるというのに何のメリットも無い訳です。海外FAに対する補償制度はいまだ未整備なのが現状なのです。まさかメジャーから補償選手取ることも出来ないし……

そこで「ポスティングによる移籍」です。選手が海外FAを取得する前、つまり球団が選手の権利を保持している段階では、選手が海外移籍を希望した場合、球団はポスティングシステムを使用して選手を売却することが出来ます。

 

松坂大輔ダルビッシュがポスティングによってメジャーに移籍した際には、落札金額はなんと5000万ドルを超えました。ドル100円とすると50億円だよ……

そしてこれらの売却金額は全額所属球団に入ります。ガッポガポです。これなら選手は海外FA権取得前にメジャーに行けるし、球団は数十億円の臨時収入を得られるし、メジャーとしても日本の有望な選手を若いうちに獲得できるのです。みんな幸せ。

現在では売却金額の上限は20億円に定められているのですが、それにしても、球団にしてみれば結構大きいメリットだと思います。

 

4.そんなにメリットあるならオリックスはなんでポス認めないの?

超ごもっともな意見です。

これには金子の所属しているオリックス・バファローズの事情を知る必要があります。

オリックス・バファローズを保有しているオリックス株式会社は創立が1964年であり、今年が創立50周年でした。それにともない、ここ数年は実績のある外国人等と大型契約を結んで着実に補強を重ねていたのですが、満を持して迎えた今シーズン、オリックス・バファローズ僅か2厘の勝率差でパリーグ制覇を逃してしまったのです。

優勝したソフトバンクは78勝60敗6分。対してオリックスは80勝62敗2分。優勝チームよりも2勝上回っていながらも優勝できなかったのですから、かなり悔しいはずです。来年こそは!と当然思っていることでしょう。

決して強豪とは言えないオリックスが今年優勝争いできたのには数々の理由がありますが、一番の理由は何といってもエースの金子。来年、優勝をして雪辱を果たしたいならば、現実的に考えて金子の残留は最優先課題です。

それに加えて、オリックスは実は本社が好調なこともあって資金にはあまり困っていないので、ポスティングのうまみはあまりないのです。

金子千尋>20億円。仮に20億円が手に入ったとして、恐らくはメジャーも含めて世界トップクラスのピッチャーと思われる金子の代わりの選手なんていうのが市場に出てくる訳もないので、オリックスとしてはなんとしても金子に残留してほしかったのだと思います。

 
5.金子のまさかの国内FA行使で状況が変わった

ここでようやく、話は冒頭に戻ります。

球団になんとかポスティング移籍を認めてもらうか、あるいはあと一年待って海外FA権を取得してからメジャーに行くか……

選択肢が2択しかないと思われていた金子ですが、まさかの3つ目の選択肢がありました。国内FA宣言です。

金子はオリックスに対して愛着を持っている選手なので、出来ればこういう選択肢は取りたくなかったはずです。今後の展開次第では、古巣オリックスを相手に戦わなければならないこともあるでしょうし。

オリックスサイドとしては、金子の国内FA宣言は寝耳に水だったはずです。しかも冷静になって考えてみると、この交渉は球団にとって非常に分が悪い。

球団がポスティングを認めなければ、恐らく金子は他球団に渡ってしまうでしょう。絶対的エースが自軍の敵として立ちはだかる……オリックスにとっては悪い夢以外の何物でもない。*1

かといってポスティング移籍の前例を作ってしまうと、今後、主力選手が今回のようにポスティングによるメジャー移籍を希望するかもしれないのです。資金に困っていないオリックスとしてはポスティングを認めない方針を取っているので、例外を作る訳にもいかない。さて、困りました。

 

6.まとめ

今回の金子のFA騒動、改めて考えてみるに、金子千尋オリックスも悪くない気がします。

国内FAを取得するまで球団に尽力してくれた金子ですから「金の亡者」だの「チームに愛着はないのか」だと言われる筋合いは無い訳で。

オリックスにしてもそうです。「メジャーの夢叶えさせてやれよー」とか言われてますが、あくまで金子はこれまでオリックスが保持する選手だった訳で、良い選手にギリギリまで長くいてほしいと考えるのは普通の考えだと思います。そりゃあ、オリックスファン以外の心境としては金子がメジャーで活躍する姿を一刻も早く見たいと思うのは当然だと思いますけどね。

 

今回浮彫になったのは、「国内FAを交渉材料としてのポスティング移籍の可否」の問題です。今回のようなことが続くと、海外FAという制度が形骸化されることは間違いないので、ポスティングシステム、FA制度等を包括的に見直し、より健全な制度に変えていくことが必要なのではないかと思ってます。

それが海外FA権の短縮という形になるのか、海外移籍に伴う補償制度の確立になるのか、あるいはポスティングシステムの再三の見直しになるのか、それは分かりませんけれども。

 

 

日本人プレーヤーの質の向上により、メジャー挑戦を希望する選手は今後ますます増えていくと思われます。その時になって選手と球団、NPBとMLBの間で軋轢が生まれないようにするためにも、移籍に関する制度をより穴の無いものにしていく努力が必要だと思うのです。